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Nov 6, 2018

平成30年度全国老人福祉施設研究会議に参加して

新館2階:服部敬充

 この度、10月30日・31日に行われた公益社団法人全国老人福祉施設協議会主催の全国老人福祉施設研究会議・北海道会議に参加しました。1日目は全大会、2日目は分科会の日程で、札幌コンベンションセンターで開催されました。

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第1日目

【基調報告】 小泉立志氏

「2025年」と「2040年」に地域や社会は大きく変容するとのことで、とくに2040年問題として、全国の半分の自治体が消え、高齢者人口のピークが2042年に来るとの予想から「消滅可能性都市」の存在が強調されていました。あくまでこれらは予測ですが、私たちは危機感をもって備えていく必要があると思います。そのなかで、医療と介護の連携が重要だといえます。介護保険制度は、医療保険との連動性を高めるために、次の3点に比重を移していくとの報告がありました。①重度者(認知症高齢者を含む)の具体的ケア、②看取り、③心身の機能回復のための訓練(リハビリテーション)、です。さらに、利用者に費用負担をより多く求めていくとも述べられていました。

骨太の方針「経済財政運営と改革の基本方針2018」では、プライマリーバランス(PB)が強調され、黒字化は2025年度を目指すと打ち出しています。混合介護についても言及されており、利用者保護や適正な保険給付の担保等の観点から求められているとのことでした。つまり、利用者本意および尊重のためには欠かせないものであり、特別養護老人ホームにも求められる内容だといえます。そこで、「記録」「説明と同意」「相談窓口」というキーワードをあげておられました。厚生労働省の「高齢者虐待防止法」に基づく対応状況等に関する調査結果において、平成18年度以降、介護職員による高齢者への虐待件数は10年連続で増加しているとのことで、私たちが抱える大きな問題だと考えています。虐待防止という課題に対して、予防を含めてどう取り組んでいくべきか真剣に考えていかなくてはなりません。

【記念講演】 高橋肇氏

「地域をつなげるICTのあり方」―医療・介護間に横たわる情報連携の現状と課題―

高齢化で何が起き、必要なのかという問題提起からはじまりました。函館にある高橋病院では、リハビリテーション機能や連携文化の育成に力を入れているそうです。高橋氏は、「街を知る、地域を知る」ことが重要だと述べられていました。今後、1人の若者が1人の高齢者を支える時代となり、「肩車型」社会へどう対応していくかを考えいかなければなりません。講演では、ICT(Information and Communication Technology:「情報通信技術」の略)の活用について、具体例を示しながら論じておられました。高橋氏は、「経営者は若者にどう仕事にICTを活かしてもらえるかを考える時代」と捉えて、業務フローの大変革をとおして、ICTにより生活様式が変わっていくのではないかと主張されていました。具体例として、“ID Link”や“ぱるな(Personal Network)”が紹介されていました。時代の変化とともに、フェイス・トゥー・フェイスではなく、新たなコミュニケーション手段のあり方を考える必要があると感じました。

1990年代の「治す医療」から、2035年には「治し支える医療」と転換し、医療モデルの変化をしていきたいと、高橋氏は述べられていました。そして、地域包括ケアシステムを構築するためには、高齢者は障がいを抱えながら生活復帰をめざす「地域完結型」であるべきだといえます。また、医療と介護の連携において、医療と介護の時差という問題提起がありました。たとえば、電子カルテと介護ソフトは別物であり、その両者を統合・時間を埋めるシステムの必要性を感じました。高橋氏によれば、「医療と介護をつなげるために、①データの統合(整理・整頓)、②各種IDの紐づけ、③連携ネットワークの整備(≒有用な情報交換)が必要不可欠」である。たしかに、医療と介護がデータ上で分断されている現実のなかで、「何をしたか(医療側)」と「どうなったのか(介護側)」をつなぐことはとても大切なことです。しかし、情報の乱用にならないように、セキュリティーやプライバシーには十分配慮していかなければなりません。さらに、医療職と介護職では、見え方・考え方が異なるとの高橋氏の論弁を聞いて、現場で働いている私としても同じ意見です。介護職は、本人の意向に着目し、ICFの重視、生活支援の視点を忘れてはいけないと再認識しました。ICFの観点から、「参加」は生きるための目的であり、「活動」はそのための手段であるという考えはとても重要だと感じました。つまり、本人の気持ちや生活の質を重視することが大切なのです。

【講演】 石水創氏

しあわせをつくるお菓子~“白い恋人”石屋製菓の挑戦~

石屋製菓の歴史からはじまり、理念や企業経営、今後の展開についての内容で、いろいろな経験を踏まえて講演されていました。石屋製菓は他社と競合しながら、1970年代に駄菓子から高級志向のお菓子作りへと方向転換をして、手間暇をかけて付加価値をつけることで成長していったそうです。1976年にお土産として有名な「白い恋人」を発売しました。2007年8月に白い恋人賞味期限改ざんというコンプライアンス違反が発生し、クレームの電話が殺到しました。このときに、お土産にもたくさんの思いが詰まっている実感したそうです。そして、製造年月日と賞味期限を一つ一つの袋に印字するなどの約束して、当時の戒めだと話されていました。

しあわせをつくるお菓子のために、「お客様・社員・地域のしあわせ」を追求して、三方善の精神をモットーにしておられます。ポジショニング・ブランド設計・タッチポイントというキーワードで説明し、企業経営はとてもわかりやすかったです。ここで、タッチポイントとは、顧客が製品、ブランドやビジネス、サービスについての感じ方を変える可能性のある、あらゆるインタラクション(物理的なやりとりがないものを含む)のことです。物理的なやりとりがない例としては、ネットで製品のレビューを見つけることなどがあげられます。たとえば、屋外看板のタッチポイントとして、必ず温度計をつけています。これは、北海道ならではのツールとして、寒い・気温という大きな強みです。また、広告ではイメージを大切にしており、ウインタースポーツや北海道(利尻マラソン、コンサドーレ札幌などの地域密着)に関連するものとしているそうです。石水氏は、「競合他社は必要であり、競合がいないと衰退していく」と述べられており、とても印象深い言葉でした。

【老施協ビジョン2035説明】

「みなさんとつくる これからの福祉・介護」

討論形式の講演でした。「介護とは、その人の人生を丸抱えする、私生活に踏み込んでいくもの」との指摘があり、まさにその通りだと感じました。間接業務の効率化により介護に充てる時間をより確保することができるという内容はとても興味深かったです。介護における業務の割合として、直接業務が42%で、間接業務が58%で、後者は①移動・準備等、②情報共有、③記録作成・確認に分類されていました。高齢者と接する時間をつくっていくためには、この間接業務の効率化が求められています。次のような3つの提案がありました。

  1. 「ハンズフリー」で間接業務の効率化を図る。具体例:エアカウンター、amazon echoなど、介護記録や報告書の作成を音声入力で行うことができる。
  2. 自動音声を活用して限界集落に高品質の介護サービスを提供する。具体例:TOYOTA e-palleteなど。
  3. 隙間時間に誰でも介護に関われる環境を整備し労働力を確保する。具体例:Honor、シェアリングなど。

なぜいまビジョンなのか?それは、介護離職の増大(2020年)、認知症患者が700万人を超す(2025年)、日本が先進国でなくなる(2040年)、2人に1人が高齢者(2045年)などのさまざまな予測があるからです。ビジョンとは道標・羅針盤であり、2035にどうなっているのか・どうあるべきかを想定して、上述の課題に向けて介護の供給体制を変えていかなくてはならないと改めて考えるよい機会となりました。

 

第2日目

【分科会】

第1分科会『伴走型介護の追求-QOL向上に資するケアの実践』分散会①(認知症ケアの実践)

札幌コンベンションセンター1Fの特別会議場で、定員数は456名でした。認知症ケアに関するさまざまな事例・研究発表はとても興味深く、認知症カフェや困難事例の報告が多くありました。私も、「わたしの生活は変わった~ひとりの入居者の観察と記録~」という演題で発表し、よい経験をすることができ、さらに今後のケアに活かしていきたいと心持ちを新たにすることができました。発表の機会をくださり、ありがとうございました。

老施協ビジョン2035でも指摘されているように、2025年には認知症患者が700万人を超すといわれています。認知症になったとしても、その人らしく生きることは、当然の権利であり、私たち介護者の大きな責務・職務だと思います。とくに、認知症カフェは今話題の取り組みで、試行錯誤や苦労がうかがえる研究発表は面白く拝見しました。会場選びにも苦戦して、なかなかスムーズに運ばず、地域の理解を得るのも大変。なりゆきに任せることも多く、徐々に地域の理解を得ながら、一般住宅→神社へと会場も変化。委託事業としてはじまった事例発表では、臨床心理士による回想法、徘徊捜索フォーマットの作成、認知症キッズサポーター養成講座などの活動を紹介。また、認知症ケアの困難事例では、いろいろと学ことができました。簡単に紹介すると、ケアカンファレンスを週3回(月・水・金)実施。幼少期からの人生アルバムの作成。作業療法士の役割としての余暇活動、環境調整、BPSDへの対応。2か月に1度の業務カンファレンス開催。24時間生活変化シートの活用。「にんち(認知、ニンチ)」という略語による言葉の乱れ→症状を見て、人を見ていない。オズクレド(職員の心構え)とユマニチュードの実践。OJT(職場で実務をさせることで行う従業員の職業教育のこと)によるチームケアの質の向上。脳トレに特化したレクリエーションの提供。などがありました。

【特別報告】 高野敏充氏

北海道・札幌市認知症介護指導者ネットワークリラネットの活動報告

認知症介護実践者養成研修に関する報告でした。活動報告のなかで、北海道の研修は地理的に範囲が広く、行政だけでは対応できず、委託になっているとのことでした。たしかに、北海道の端から端は東京-大阪間の距離と一緒なので、広いことがわかります。

今までは地域によって研修内容がバラバラ、また終了評価があいまいで、現在統一に向けて取り組まれているそうです。公的研修であるのに、おかしな話です。リラネットの今後の課題と展望として、リーダーによる認知症ケアの専門職育成は効果的なOJTの推進が鍵となり、さらにOJL(職場内学習)→学びあうことが大切とのことでした。科学的根拠のある評価の推進として、認知症ケアレジストリへの参加が必要だと述べておられました。

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