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Dec 20, 2019

認知症リーダー研修

テーマ「認知症高齢者の気持ちを学び、受容・共感する」

~その方に安心して生活してもらえるように~

 施設名:特別養護老人ホーム優・悠・邑       氏名:西川裕子

 

  1. はじめに

当施設は、関ヶ原町に平成9年に開設し、設立から20年が経過した。従来型50床・ユニット40床・ショートステイ20床・定員35名のデイサービスを併設している。

現在、ユニットの課題として、日々の食事・排泄・入浴などの直接介助が中心となってしまい、入居者様とのコミュニケーションが少なく、信頼関係を十分に築く事ができていないことである。また、指導する職員も、ティーチングが多く、ケアの事を職員に考えてもらう機会がなく、指示がないと動けない職員が多い。その為、コーチングを行っていき、職員自身が考えてケアを行えるようにしていく必要がある。

介護を行っていくうえで、コミュニケーションは重要であり、個人の声に耳を傾け、その方を理解した個別ケアが必要である。今回の取り組みを通して、一人ひとりと関わり、その方を知ることで、安心した生活を送って頂けるケアを考えていきたい。

 

2、現状における課題認識と目標

(1)バイジー

バイジーは介護経験が2年目の介護士であり、30代の女性である。従来型特養から異動してきたばかりで、ユニット型施設のケアと従来型施設のケアの違い(例えば、時間の流れ方・入居者様との関り方など)に戸惑いが見られる。声掛けに対して、本人は、気を付けて声掛けをしているつもりだが、周りの職員からは、優しさがなく、乱暴な声掛けをしているように聞こえてしまうこともある。業務をこなすことで一杯になってしまい、入居者様に目を向けることができていない。また、一人ひとりの入居者様に対しての把握している情報量が少ないこともあり、その方の生活歴・思いを意識した言葉かけ・共感できる言葉かけがうまくできていないことが課題である。

今回の実習を通して、入居者様と、ゆっくりと関わり、情報を集め、その方を知る事によってその方に合わせた声掛け・気持ちを汲み取れる職員になってほしい。

 

(2)利用者

対象者:Aさん 女性 90歳 要介護度4。平成27年に同じものを何度も買ってくるなどの認知症症状がみられ始め、アルツハイマー型認知症と診断される。デイサービスを利用して在宅で生活していたが、平成28年9月に帯状疱疹になり、自ら動こうとされなくなり、足腰が弱り歩行困難となった。平成29年6月 脳梗塞発症(左不全麻痺)のため入院。老人保健施設に入所後、平成30年2月に当施設のユニットに入居となる。

Aさんは、毎食後・夕方・就寝後などに「お金はいくらですか?」「あたしお金もってないの?」「明日、払いますから今日は泊めて下さい」などと、お金に対する不安が強くなり、何度も同じ言葉を繰り返される。また、ボランティアや仲良しの方が入浴に行かれたりと、いつもと環境が変わると、不安になり、フロア内をウロウロとされたり、機嫌が悪いと壁に貼ってある壁面を剥がされ、落ち着かれないことが時々みられる。

 

3、実習計画

(週間計画)

1週目

目標:コミュニケーションの大切さ、認知症高齢者のBPSDについて学び、情報の必要

性が分かる。

  1. BPSD・センター方式についての勉強会
  2. コミュニケーションについての勉強会

③ 入居者様に対して共感・受容する声かけが出来ている職員のケアの仕方を2時間みてもらい、観察・気づきをメモしてもらう

 

2週目

目標:センター方式で情報を集めることで関わりが増える

①C-1-2 私の姿と気持ちのシート・D-4 焦点情報(24時間生活変化シート)を

記入する。→他職員にも協力を得て記入していく。

②センター方式 C-1-2 私の姿と気持ちのシート・D-4 焦点情報(24時間生活変化シート)記入後、使用して面談を行い、C-1-2 私の姿と気持ちのシートの書き方について話し合いを行う。

③D-4 焦点情報(24時間生活変化シート)の記録がバイジー自身記入しにくく、情報が少なかった。Aさんの24時間の行動・様子・気持ちなどの情報を得るためにはどのようにするといいのか検討する。

 

3週目

目標:Aさんとの関りを見守りチェック表(施設独自の24時間シート)に記入することで関わりが増えケアを考えることができる。

①他職員に協力してもらいAさんの様子(お金に対する発言・表情)やどのように職員が関わったかを記入する

②1週間記入を行い、見守りチェック表を見ながらケアを考える

 

4週目

目標:考えたケアをフロア全体で周知し実践する。3週間取り組んだ事を話し合い、次に繋げる。

①センター方式C-1-2 私の姿と気持ちのシートについて、再度話し合いをする   ②Aさんに対して統一した声掛けを行い、Aさんの様子を見守りチェック表に記入する

③今までの実習内容を振り返り、バイジーの今後の課題を話してもらう

 

4、結果

(1)1週目

①②、BPSDについていくつかバイジーに質問を行ったが、中核症状にさまざまな原因が加わって出現するという事は理解していた。心理症状の中にはどのような物があるかを確認した際、妄想・幻覚・情緒不安定などは分かっていたが、その他のことは分からなかった。不眠や暴言・暴力もBPSDに含まれる事、その現象の裏には何か他の訴えが隠れている事をバイジーと再確認した。身体的側面・その人の取り巻く環境・ケアの仕方などに目を向ける事が重要であることに気づくことができ、A様の事を考えるきっかけとなった。

コミュニケーションとは準言語と非言語があり、準言語コミュニケーションより非言語コミュニケーションをとる事を大事にしてほしく、非言語コミュニケーションの説明を具体的に行った。表情や距離・身体の接触など、今回の研修を通してバイジー自ら体験し、言葉だけではなく、表情や距離など寄り添うことの大切さに気づくことができた。

③入居者様に対して共感・受容する声かけが出来ている職員のケアの仕方を客観的に見てもらうことで、バイジー自身の入居者様に対する、言葉かけが少ない事・ゆっくり入居者様と会話することが少ない事など、自身のケアについて振り返ることができた。また、職員Iさんの声掛け・関わり方などのケアを見ることで、バイジーと話しをしている時は入居者様の笑顔が見られないが、職員Iさんと話をしている時はたくさんの入居者様の笑顔がある事・楽しそうに昔の話をしている事に気づき、入居者様と会話をする際に、昔の話や写真を見せることによって笑顔がうまれる・不安や孤独感を軽減することができ、意欲を向上させることができる事を、職員を観察することで感じることができた。

 

(2)2週目

①センター方式C-1-2 私の姿と気持ちのシートをなぜ使用するのか、本人の気持ちや絵を描くことによって何に気づくことができるのかを自身が掘り下げて説明ができていなかった為、記録が少なく、Aさんの今の気持ち・してほしい事等を記録することが出来ていなかった。そのため、C-1-2 私の姿と気持ちのシートを記入する際に、Aさんの普段の様子・行動・表情などに着目して記入することを伝えると、バイジーはAさんの様子をより観察し記録することができた。

②③センター方式D-4 焦点情報(24時間生活変化シート)について5日間記入を行ったが、職員みんなで記入した、D-4 焦点情報(24時間生活変化シート)では、Aさんに対して関りが少ない事が明らかになったことと、「お金はいくらですか?」と言われている際に受け答えしたことのみの記入しかなく背景が見えなかったことから、バイジー自身に、どうすれば職員がもう少し関わることができ、詳細な記録を書くことができるかを考えてもらった。

今まではバイザーが「このようにやってみて」とティーチングを行うことが多かった為、バイジー自身に考えてもらう事で、Aさんに対して関わりを増やすことができるようになっていった。

 

(3)3週目

①②見守りチェック表を基にAさんの「お金いくらですか?」と言う不安に対して検討した。バイジーが記録を読み返すことで、他職員の関わり方・声掛けの仕方を学ぶことができた。例えば「お金いくらですか?」と言われた際に他職員が「銀行から振り込まれますよ」と伝えると納得されるが、「お金はいりませんよ」「お金の事は知りません」と伝えると何度も聞かれたり、興奮されたりされるなどの姿が見られた。どのような統一した声掛けを行うとAさんにとって安心できる声掛けなのかを分析することができた。また、バイジーがAさんと話をする中で「若いころは貧乏だったから、貧乏でも行けるおまつ寿司にお寿司を食べに行った。」「旦那は国鉄に勤めてたけど…」などとお金の事を心配される言葉がみられ、原因が分かる事で「お金が手元になくて心配な気持ちはわかりますよ。」と共感し、「銀行から引き落されますから、大丈夫ですよ」など、安心できる声掛けが必要だとわかった。

また、見守りチェック表の記入を行っていく中で、バイジーのAさんに対する関わりが増えた。今まではゆっくりとそばに座って話をしたりする事がなかったが、隣に座りAさんと同じ景色を眺め、寄り添うことで、Aさんが安心できる事に気づくことができた。また、他職員にもAさんの様子や関わり方を聞いたり・話したりする事で、職員同士の情報交換・コミュニケーションの大切さに気づくことができた。

 

(4)4週目

①C-1-2 私の姿と気持ちのシートについて再度見直しを行った。前回に比べ、Aさんの行動や職員から自発的に情報を集め記入することができていた。C-1-2 私の姿と気持ちのシートを記入することで、バイジーがAさんに向き合い、今どのような気持ちなのか、を考える事ができるようになってきた。また、家族の方から面会時に情報を得る中で、「昔は温泉によく行っていて、薬草風呂に入っていた」と言う話を聞き、バイジー自身が、Aさんにヨモギのお風呂に入ってもらいたい・喜ぶ顔が見たいという思いから、ヨモギ湯を行った。2週目でヨモギを干し、4週目で乾燥したヨモギ湯を使って入浴してもらうことで、その人の事を知りたい、喜んでもらいたいという思いが強くなったと感じた。

②統一した言葉がけ(お金に対する不安がある時は話をしっかり聴き「銀行から引き落とされますよ」と統一)を行うことで、Aさんはお金に対する不安が少なくなり、穏やかに過ごすことができるようになった。職員全員がA様に対して同じ方向でケアをすることの大切さを改めて学ぶことができた。また、バイジー自身3週間の研修を通して、入居者・職員の信頼関係の大切さに気づくことができた。信頼関係ができているからこそ、安心して受け入れてもらえるのかもしれない。

④3週間Aさんに深く関り信頼関係ができたからこそ、「銀行から振り込まれますよ」と言う言葉に安心する事ができたのかもしれないと、バイジーと再確認した。また、今回の実習を通して、情報の大切さ・統一した声掛けの大切さ等の学びを得ることができた。しかし、共感する言葉かけについては、まだ出来ていないことも多く、今後もバイジーと一緒に学んでいきたい。

 

5.考察

・勉強会や日々の面談の中で、指導するという事は、自身のケアに対する考え・知識・バイジーの意見を掘り下げて話をする力が必要だと改めて感じた。知識はあっても、実際に伝えていく難しさ・どの段階まで理解できているかを確認する言葉がけの難しさを実習の中で感じた。また、私自身、バイジーに気づきを与える言葉がけが少なかったと考える。指導するにあたって、もっと私自身が知識を学び、バイジーに何を学んでもらいたいか・気づいてほしいのかを明確にしてスーパービジョンを行うべきだったと反省する。

バイジーは、実習を行う前は、優しい言葉かけが少なく、どちらかと言うと乱暴な声掛けをしているように見えた。他の職員のケアを見ることにより、自身の関わりが少ない・寄り添えていないことに気づくことができバイジー自身、自身のケアを見直すよう機会になった。センター方式・見守りチェック表を使用し、コミュニケーションをとる事で、A様と向き合うことができた。その人を知るために「アセスメント」「入居者様を理解・受容・共感する」ことの大切さを学んだ。関わりを増やす中で、声掛けの仕方・表情・関わり方に変化がみられるようになってきた。

また、他職員に今回の研修を通してバイジーの変化を聞くと、バイジーと入居者様が関わっている際、以前に比べると、入居者様の表情がよくなり、穏やかに過ごすことができている。以前に比べたら入居者様との関わりが増えたと同時に、バイジー自ら入居者様の様子を職員同士で話したりする事が多くなったとのことだった。このように他の職員もバイジーの成長を感じることができた。まだ、共感・受容できる言葉がけができていない部分もあるため、バイジーと共に今後も学びを増やしていきたいと思う。

 

6、まとめと今後の課題

職員を指導するにあたって、指導者側の知識がないと、しっかりと根拠を説明できないため指導者の知識を増やすことが必要不可欠だと感じた。スーパービジョンを行う上で、いかにバイジーがバイザーの考えを導き出せるように声掛をするか、バイジーの考え・学びをより深く掘り下げていき、よりよい学びをサポートしていけるようにしていきたい。

バイザーと話をする際に、ティーチングが多くなってしまい、バイジーの意見を聞くことの難しさを感じた。また、入居者様とのコミュニケーションも大事だが、職員の同士のコミュニケーション・信頼関係も大切だと思った。職員同士の人間関係がしっかりとできていると、悩みやお互いの意見が言い合えたり、不十分なケアについては指摘しあえたりする。結果、お互いのケアの質が上がり、入居者様にとってよりよいケアを行うことができると感じる。バイジーが考え・その方に寄り添うことで、他職員も刺激となり、その方の事をしっかりと知り、何に悩んでみえるのか・訴えたいことは何なのか?等と考え、行動する姿がみられ、バイザーだけでなく、フロアの職員の学びとなったと感じる。