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Feb 3, 2017

平成28年度全国老人福祉施設研究会議(長崎会議)報告

 

1月24日、25日と、長崎県で行われた「全国老人福祉施設研究会議」に参加してきました。その研修内容を報告します。

服部 敬充

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【基調報告】

医療との役割分担について、次の論点が報告されていました。「現在、介護福祉士等がその業務として実施可能な医療的ケアには、喀痰吸引と経管栄養があるが、今後、地域包括ケアシステムの構築を進めていくにあたり、医療と介護の連携や役割分担をさらに推進していく上で、介護福祉士等による医療的ケアのあり方について検討する必要があるのではないか」ということでした。今後、医療従事者との役割分担は重大な課題であり、介護人材の専門性を高める一環としても、介護福祉士等による医療的ケアの範囲の拡大は検討されていくのではないかと感じています。

 

【講演「若者がおもしろくする介護の未来」】

講師の秋元可愛氏は「違和感=可能性」を強く主張されていました。自分の生活、学校、仕事のなかで感じている小さな疑問や違和感は、誰しも抱いているのではないでしょうか。秋元氏は介護現場で、「人生のおわりは、必ずしも幸せではない。支えている人も苦しんでいる」という違和感をもったそうです。それを可能性と考え、仲間とともに学ぶ場「HEISEI KAIGO READER」を発足させ、自分の想いを実践に移しているところに感銘を受けました。講演のなかで、「人の小さな諦めの積み重ねが、今をつくっている」という言葉を聴いたときに、はっとさせられました。確かに、忙しい業務において諦めていることがたくさんあるなぁと痛感しました。常日頃、いまよりよくしていくためには、自分で考えて、対話して、気付くことが大切であると感じました。介護職は、三大介護である食事・排泄・入浴に焦点をあててしまいますが、介護の役割は地域をデザインすることであるという指摘はとても重要なことだと考えています。まずは小さなことからできることからはじめていこうと思います。

 

【特別講演「夢持ち続け日々精進」】

講師は、ジャパネットたかた創業者の高田明氏でした。企業経営という視点からは利益を生むことが大切ですが、人を幸せにするというミッションを遂行し、今でもその夢を持ち続けているそうです。子どもが元気な、高齢者が幸せな、女性が輝く世の中でありたいと。講演のなかで、「高齢化社会」をキーワードに話をされていました。商品の販売において、人を豊かにするためには、少子化や高齢化を考慮しなければならない。具体的には、タブレットや電動歯ブラシ、電子辞書など若者向けの商品のように思われるものが、高齢者の生きがいや8020運動と絡めて、使い方を伝えて提案することで、高齢者向けに販売を展開していったそうです。高田氏は「辛かったことがない」「失敗がない」「がんばった分だけ報われる」と話され、とても興味深く拝聴させてもらいました。これはブレイクスルー思考といわれるもので、たとえ結果は失敗だとしてもがんばっていれば、次へのステップになり、結果的に報われるということです。つまり、やったことは無駄にならないのです。さらに、印象的な言葉に「自分の仕事に誇りをもつ」「今を生きる」があります。私は自尊心が低いように感じるので、誇りを持って仕事をすることは大変重要なことだと感じました。また、改善・改革するうえで、今という瞬間を変えることが大事で、未来の不安に頭を使う必要がないという話を受けて、諦めることの空しさを感じています。

伝えることの大切さは以前から重要であると考えていました。伝えないのはないのと同じです。高田氏は次のように主張されていました。「伝えるのはリーダー(トップ)ではなく、皆さんが伝えるのです。リーダーシップ論とは、遠慮なく意見を言うことである」と。今までの経験を通して、伝えるときに大切なことは、相手の心を読むことであり、人を感じるこころであるといわれ、伝えることの大切さを再認識しました。日本を代表する伝統芸能の「能」500年前の偉人、世阿弥の視点を例にあげられ、とてもわかりやすいと感じました。「我見」「離見」「離見の見」の3つの視点を意識することが大切です。ここで、「我見」とは自分からお客様をみる目のことで、しっかり見ないといけません。「離見」とは、お客様から自分をみる目で、お客様視点です。そして、「離見の見」とは、それら全体を、俯瞰して見ることです。この3つがあってこそ、よいものができるということで、日常の仕事と同じだと思いませんか。私たちが利用者一人ひとりに向け合うときには、この視点は参考にすべきだと感じました。ぜひ、実践に活かせるようにしたいものです。

 

【第1分科会『科学的介護の実践(高品質サービスの追及)』分散会②(自立支援介護の実践①)】

重要なキーワードは多職種連携。管理栄養士や機能訓練指導員など、多職種が連携して自立支援を実践していくことの大切さを学ぶことができました。今後の取り組みを展開していくうえでも、取り入れていくべきだと考えています。優秀賞の「人をつなぐ食卓~Food shopping療法~」では、買い物外出支援を行い、どこで買おうかという楽しみも食事の一環であるという考えに基づいて、くらしの中で食事の流れを大切にされたとてもよい取り組みであると思いました。他にも、ポジショニングや看取りケアなど興味深い発表がたくさんあり、よい刺激になりました。

 

【特別報告「自立支援」】

見平隆氏は施設生活に何を求めているかを題材に話され、自立支援の意味を考えさせられる重要な機会となりました。「何を求めているのか」ということは、「その先に何があるか」ということがあってはじめて具体化されます。本人・家族・施設職員が想定する「その先」があり、自分の老いや、家族にとっての個人の存在を考えながら、入居者がどのようになることを求めているかを私たちは考えていかなければなりません。3か月後、6か月後の生活の姿を意識することが重要です。自立支援では、受け身ではなく、能動的に働きかけることが大切であると主張されていました。職員がどのように関わっていくのか、施設でどう暮らしていくことができるのかを私たちは常に考えていく必要があります。施設ケアでは、衣食住が保障されていることから、入居者の生活の質を考え、将来のビジョンを検討していくことが大切だと感じました。本人、家族、関係者それぞれにとっての満足感は同じではないですが、それぞれが最善を尽くしたという完了感を実現することが重要であるという意見があり、まさにその通りだと感じました。

どうしても、生活の質は生物レベルのみに目が向きがちです。しかし、実存・体験・体感などの生活史といった実存レベルに目を向けるべきです。重要なことは本人の自律・自立性の満足という喜びではないでしょうか。いわゆる、命があること(生きている力)でなく、自分にとって大切なものを見つけて気づいたときに湧き出た力(生きていく力)に注視することが大切なのです。この生きていく力をバックアップしていくためには、現実のなかでどのように生きていくかを考えるべきなのではないでしょうか。生活の質をとらえるうえで、現状維持は退化といわれるように、現状維持とはあまりよい意味では捉えていませんでした。しかし、加齢とともに低下していくのは当たり前であり、現状維持とは向上していると考えることができると話され、なるほどと思いました。自立支援では、あいまいな「利用者のため」ではなく、「利用者の何のためか」を明確にする必要があると感じました。介護の一連のつながりを把握し、入居者の視点から自立支援が大切ではないかと考えています。