本格導入物語
北欧式トランスファーテクニックを初めて目にした衝撃
「福祉先進国デンマークの介護技術『北欧式トランスファーテクニック』は素晴らしい!」思わず若山理事長・総合施設長は目から鱗が落ちた。
それは、全老施協研究会議岐阜会議で「北欧式トランスファーテクニック」を初めて目にした瞬間であった。講師のデンマーク在住小島ブンゴード孝子氏が、スライディングシート(ヨットの帆と同じ素材)を使っていとも簡単にベッドの要介護者を上方移動させる姿に会場はどよめきが響き渡った。
「よし、この介護技術で職員を救える!」と、導入を即座に決断した。
感動の余韻がさめやらぬその後、岐阜県老施協は県下4カ所各地で小島ブンゴード孝子先生を招いて実践研修の続編を実施した。
福祉先進国デンマークで学んだ“介護の真髄”
若山理事長は、新しい介護技術を本格的に現場に浸透させるには、熱意と粘り強さを持ったリーダーが絶対不可欠と、責任感の強い吉澤進治にその使命を託くそうとヒラメいたのだ。
そして、本場での「北欧式トランスファーテクニック」体験をと、デンマーク在住の小島ブンゴード孝子先生のもとに吉澤を派遣した。
デンマークの福祉事情
「不思議なことに言葉の壁は感じませんでした。介護に携わる者同士だからでしょうか、体や目の動きを見れば何をすべきかを理解できました。また、デンマークでは介助される人の自主性を尊重し、いつまでも“待つ” 見守る時間を大切にしていました。日本では考えられないあまりの永い待ち時間に思わず手が出そうになった」と回想していた。
「特に印象深いことと言えば、一人に対し介護士はもちろん、看護師、理学療法士、栄養士、事務職員が入れ替わり立ち替わり出入りし、会話や交流があり働く人々がとても楽しそうに見えました。職員はすべて公務員。生活が安定しているせいか、皆さん服装もオシャレで明るい雰囲気なのがとても印象的でした」と振り返る。
気迫みなぎる徹底した取り組み!
吉澤はデンマークから帰国すると、ただちに若山理事長に研修成果を報告した。
その中で「北欧式トランスファーテクニック」導入に不可欠な道具や設備の充実を嘆願した。
理事長は即座に、車椅子(アームレストが上がり、フットレストが外れるもの)30台、スライディングボード20枚・スライディングシート10枚を購入するなど、素早く実践体制を敷いた。
また、家族会の皆さんにも「北欧式トランスファーテクニック」の必要性を説明し、理解と協力を求めた。
耳を傾け、相手を信じる!
若山理事長の気迫に吉澤が奮い立った。施設内研修は、若手職員が意欲的に取り組む姿勢を見せる一方で、従来の介護技術に自信を持つベテラン職員から「今までより時間がかかる」といった不満がでた。
吉澤は毎日悩んだ。反対意見を持つ職員の意見をどうすればくみ取れるか知恵をしぼった。現場の一人ひとりの考えをまずは尊重し、注意深く耳を傾けた。
そして吉澤は重たい口を開いた。“腰痛で仕事を続けられなくなる心配から解放されるよ!”と説いたのだ。
職員の意識に変化が!
やがて職員も新技術導入の受け皿として「介護技術検討委員会」を設立した。事務職を含むすべての職員に機運が徐々に高まっていった。
当初は週1回の参加計画が、参加者のモチベーションがヒートアップし、週2回、3回と予想外に意気があがっていった。こうして、永い3か月間の徹底した施設内研修が職員にゆきわたっていった。
入居者の姿に感涙した!
いよいよ次は、入居者への実践だ。案の定、反応はさまざま。これまでと違う介助方法への抵抗をあらわに示す入居者たちがいた。ここでも吉澤は頭を悩ませた。ところが、予想外の出来事が起こった。
新しい介助方法に賛同する入居者が自発的に、抵抗する入居者との話し合いを始めたのだ。「体の重い私は、介助をお願いするたびに申し訳ない気がしていたけど、新しい方法は職員さんの負担が少なく済むことを知って気持ちが楽になったよ」「今までは男の職員さんに頼んでいた介助も、これからは女の職員さんにも気兼ねなく頼めるから助かるわね」と・・・。
一筋の光明が!
あっという間に月日が経ったある日、再来日した小島ブンゴード孝子先生からうれしい言葉をいただいた。
「普通は演習を行うと驚きの歓声が上がるのですが、杉和会さんでは歓声が一度もないですね。これは、一人ひとりがトランスファーテクニックを体得し、しっかり理解している証です」と・・・。この一言で職員たちは3ヶ月の研修の成果に自信を得た。
こうして、杉和会における「北欧式トランスファーテクニック実践」の成果がどこからともなく少しずつ外部に知られるようになっていった。
吉澤は全国老施協から奨励賞の受賞や、シンポジストになるまでに至った。
全国の施設から、研修依頼の声があがった!
全国に1万数千カ所ある老人福祉施設の中で、いまだ実践に至っていない施設が多いことを憂い、無償で普及に奔走した。
ある時、若山理事長と吉澤は共に招かれた研修会で、300名を超える参加者に対し、休む間もなく丸2日間にわたる激闘の講習会を体験した。
予想を超える当時の大反響がいまだに目に浮かび、招いてくださった鹿児島県の社会福祉法人「野の花会」の吉井敦子理事長様に、今もってその感謝の念は心に焼き付いて忘れない。
また、全国各地の施設から「北欧式トランスファーテクニック講習」の受け入れは、施設間交流によって互いの施設の介護サービス向上にも大きく寄与することから、あらためて施設間交流の大切さを実感しているところです。
優・悠・邑式トランスファーテクニック!
「北欧式トランスファーテクニック」は20数年間の歴史と伝統の上に成り立っている確立されたノウハウである。
永い年月をかけ、この正統を受け継いだ時、欧州人と比べ小柄な日本人に合った応用が杉和会で見出すことが出来るようになっていった。
例えば入浴介助でも「優・悠・邑 式トランスファーテクニック」としての成果を見出した若山理事長に聞いてみた。
わが国は今から10年後には、団塊の世代がすべて後期高齢者になり、介護人材不足がますます深刻化していく大変な問題を抱えているのが現状です。特に社会全般には「介護の仕事は腰痛でやめていく人が多い」といわれていますが、当施設では「北欧式トランスファーテクニック」導入後は腰痛でやめていく人はゼロ。むしろ、前職で腰痛を患った人が、当施設の職員になるなど、求人不足で悩んだことはありません。これも、「北欧式トランスファーテクニック」の日本導入に大きな貢献をされた小島ブンゴード孝子先生のおかげと感謝しています。
「北欧式トランスファーテクニック」を正しく受け継ぎ永年実践してきた結果、応用として、やはり小柄な入居者に合ったトランスファーを施設内で見出しているところです。これを「優・悠・邑式トランスファーテクニック」と称しています。それと、私は、私なりに地域住民を対象とした介護者教室や、全国からの研修受け入れや、県内外の講習に出向いて普及活動していますが追いつきません。もっと早くわが国に合った“楽しくて、負担の少ない”「トランスファーテクニック」を全国の施設や在宅に普及しなければ、介護人材確保の解決にもならないと将来を憂いています。
(若山宏)
と、わが国の高齢者福祉を鑑み、若山理事長・総合施設長はふと天を仰ぎみた。
施設見学研修・トランスファーテクニック実習受入
平成21年2月16日 | 特別養護老人ホーム ほっとはうす千羽(富山県) |
平成21年8月10日 | 特別養護老人ホーム トキワ荘(高知県) |
平成21年11月6日 | 名古屋市社会福祉協議会(愛知県) |
平成22年2月19日 | 養護老人ホーム 慈眼寺寿光園(鹿児島県) |
平成22年3月6日 | 特別養護老人ホーム ケアポート板橋(東京都) |
平成22年12月11日 | 労協センター事業団(滋賀県) |
平成22年12月14日 | 池田町養基地域福祉連絡会運営委委員会(岐阜県池田町) |
平成23年5月12日 | 特別養護老人ホーム クレイドルやけやま(新潟県) |
平成23年8月22日 | 特別養護老人ホーム ビアンカ(岐阜県多治見市) |
平成23年7月4日 | 特別養護老人ホーム 自生園(石川県) |
平成23年9月6日 | 特別養護老人ホーム 自生園(石川県) |
平成23年9月21日 | ボランティアグループ スイトピー(愛知県) |
平成23年9月24・25日 | 石川県介護福祉士協会(石川県) |
平成23年10月3日 | 社会福祉法人 京都老人福祉協会(京都府) |
平成23年10月6日 | 名古屋市瑞穂区豊岡民生委員児童委員協議会(愛知県) |
平成23年12月6日 | 社会福祉法人 福寿園(愛知県) |
平成23年12月6?9日 | 特別養護老人ホーム さくら苑(岐阜県岐阜市) |
平成23年12月22日 | 特別養護老人ホーム 福寿園(三重県) |
平成23年12月26日 | 特別養護老人ホーム ドリーム陶都(岐阜県) |
平成24年2月21日 | 社会福祉法人 蓬莱会(徳島県) |
平成24年5月10日 | 特別養護老人ホーム彦三きらく園(石川県) |
平成24年7月9日 | 特別養護老人ホーム ケアポート板橋(東京都) |
平成24年7月24日 | 特別養護老人ホーム たかはた荘(山形県) |
平成25年10月8・9日 | 社会福祉法人 野の花会 (鹿児島県) |