所在地マップ お問い合わせ よくある質問 在宅介護についての質問 個人情報保護方針 サイトマップ 
Dec 19, 2019

認知症実践者リーダー研修について

特別養護老人ホーム 優・悠・邑    西村 志織

 

テーマ 『生活歴を重視したケア』~楽しみのある生活を過ごしていただく為に~

はじめに現在のフロアは、身体介護を中心に行っており、業務を回すことが優先になってしまっている。入居者様一人一人としっかり向き合った良いケアが提供できていない。認知症ケアは、個々の気づきをチームケアにつなげていくことが重要であり、その為には他の職員とのコミュニケーションをとりながら情報共有を行わなければならない。

具体的には生活歴を基に、利用者様の声や姿を重視したケア、一人一人の反応に応じた個別の対応が必要である。そのため、今回の取り組みを通じて、利用者様の尊厳について考えながら、支援の内容を見直したい。一人の職員の成長とともにケアの向上を図り、結果として利用者様に対して安心した楽しみのある生活を送ってもらえるのではないかと考えている。

【現状における課題認識と目標】

  1. バイジーチームとして情報共有を行いながら入居者様の生活歴をもとに楽しみの提供をしてくれる職員となってもらいたい。
  2. バイジーは介護経験年数5年の介護士であり、ヘルパー2級の資格を持っている。50代の女性である。日常業務を回していくのは問題なくこなすことができている。しかし、パート職員という立場から自分の考えや意見に自信が持てず、疑問に思っていても自分から発信できていない。また業務を優先にしてしまい入居者様一人一人の生活歴を重視したケアがチームとしてできていない。
  3. 利用者Sさんが安心して生活が送れるように、生活の中の不安を少しずつでも解決していき、楽しみをもって生活していただきたいと考えている。
  4. 86歳 女性 要介護度4 平成22年アルツハイマー型認知症と診断される。平成27年からデイサービス利用、平成28年ショートステイ利用、平成30年当施設入所となる。日常生活の中では、普段からあまり周りと関わりを持つことなく会話されることもない。腕を組み下を向いていることが多く、立ったり座ったりを繰り返し、大声を出されることがある。いつも何か不安に生活しているように感じる。

【実習計画】

【週間計画】

1週目 職員研修を実施する。

職員同士の信頼関係を築く場を提供しコミュニケーションをうまくとれるようにする。お互いを褒め合いチームで支持し合う内容の研修を企画。

結果:お互いを褒め合う、チームとして支持し合うことでお互いの価値観を知ることがで きた。相手の価値観を知ることで、自分の価値観や考え方を見直すいい機会になった。今後も継続して行うことで、チーム力・継続力の強化を目指すことができるよう、チーム全体でお互いを支えあう土台作りができた。

バイジーにとっても期待以上の反応があった様子。付箋に良いところを書きチーム内の支える気持ちを目に見える形にしたことで、意欲的な言動が見受けられた。

考察:人とかかわる対人支援においては、お互いの価値観を認め合い相互学習の積み重ねによって学習していく。他の方と関わることで学ぶことは多く自分の入居者様への関わり方や考え方を見直す機会となる。褒めることが苦手、恥ずかしいと感じる方は多く普段口に出してなかなか言えないことも、紙に書いて伝えることで思いを見える化にできたと考えられる。

2週目 面談を行い、現在の課題について検討する。センター方式、マズローの欲求の5段階説の説明をする。記録・情報が大切だと気が付いてもらう。施設で過ごしていても、培った暮らしを継続するためには、ケアは一人では行うことができない。チームケアの必要性を感じてもらうためにも、他の職員の意見を聞いてもらう。

結果:ケアを行う際に記録・情報共有が大切だと認識できている。個人でなくチームとして継続的に関わることでSさんに変化が出始め、その変化を楽しんでケアに取り組むことができている。相手からのメッセージが何かを考えながら支援できている。Sさんの言動は繰り返しや、ネガティブなものもあるが、それを問題としてとらえず、メッセージとして受け止めた。「Sさんがもっと楽しい1日を過ごせるように」①座席の変更②体操時の選曲を工夫する③できることを支援する(洗濯物たたみ)④ぬり絵・ちぎり絵⑤家族の写真を見ながら話すといったことを積極的に関わる姿勢がみられた。

考察:ケアを行う際に大切なこと・必要なことは、それぞれ考えはあると思う。しかし、相手の気持ちを考えた支援、生活に楽しみをもって頂きたいという気持ちは同じである。ただ言い方が違うだけで根本的なことは同じである。認知症ケアにおいて365日24時間同じ方が関わることは不可能なので、必然的にチームとしてケアをしなくてはいけないことがわかる。自分以外の方がいない部分を補ってくれているから継続的なケア・統一したケアを提供できることを改めて感じることができたと思う。その為には、記録が必要不可欠である。また、バイザーの働きかけによるものではあったが、記録と口頭での説明をセットとして伝えていた。記録してある内容に加え、ニュアンスやエピソードを加えて伝えることができるため、チーム内で共有する上では効果的であった。

3週目 生活歴や日々の情報の中から、アプローチの方法をバイジー自ら考えて実践してもらう。情報共有を行い、統一したケアを行うことでSさんの変化を知る。家族様の協力を得て家族支援の必要性を感じてもらう。

結果:Sさんにとっての楽しみ・安心できる生活は何かバイジー自身が考え、その中で表情・発言・行動・様子・情報・記録・生活歴を通して見つける努力がみられた。「いろいろ言うと混乱するかなぁ…」「一つのことは集中してやってくれる」など、バイジーが話す長さや量を調整し、Sさんに伝える情報量に配慮していた。

考察:ティーチングがほとんどの2週間になってしまい、私自身が2週間を振り返ってもう一度スーパービジョンを心掛け実践に取り組んだ。バイジー自身がSさんにもっといろんなことをしてもらいたい、楽しいことをしてもらいたいと思い、その為には情報が必要だと考え入居者様をよく知るため、生活歴・個人ファイル・普段の記録(発言・表情・行動)を振り返りなにかないかと見つける努力がみられるようになった。今までにない行動がみられるようになった。例えば、入居される前にデイサービスとショートステイを利用されており、今の職員にSさんの当時の様子を伺いどんな事が好きだったか、利用していた時はどんなことをしていたかなど自分から聞きに行く行動がみられた。聞いて得た情報をもとにSさんに対して、ちぎり絵やぬり絵を実際にやってみて、分析することが出来ている。ぬり絵でここを塗ってとお願いするとその部分だけを丁寧に塗ってくれる。ちぎり絵では全部参加することは難しくても、折り紙をちぎるという一つの動作はできるという分析ができ、情報として他の職員にも伝えて、これからも継続した取り組みをしようと自分から働きかける事ができている。

4週目 Sさんに対してアプローチを続ける。その中で、役割・楽しみを提供することによって安心・楽しい生活を過ごすことができると実感してもらう。Sさんの変化を確認しながら成功体験をすることで、バイジーにとっての今後のやりがいへつなげていく。

結果:バイジー自身が考えたアプローチ方法を実践し、Sさんの喜ぶ姿、昔を思い出す発言・行動・他の入居者様との関わり、今後の楽しみを提供することができ、成功体験をすることができた。Sさんとのやりとりを重ねながら、土に根差した生活歴を活かして園芸をこころみた。土を見たSさんが自ら作業し、「水は根っこに」と言いながら、花を植えた話をしてくれた。

いつも「ここどこや」と言っていたSさんが「ここはうちや」とつぶやく場面に出会った。バイジーにとっても大きな喜びだった様子。成功体験をしたことにより、さらなる課題を見つけ取り組む姿勢がみられた。

考察:自分自身が考えた実践方法でアプローチすることで、楽しんで実践に取り組むことができている。Sさん以外の入居者様も巻き込み、みんなで楽しみを共有することができている。職員からのアプローチだけでなく、他の入居者様から声を掛けてもらうことで違う一面を見ることができた。これは、一人で行うのではなく仲間と一緒に行うということがかぎになっており、マズローの欲求の5段階説でいう『所属と愛の欲求・承認の欲求』が満たされていることにつながっていくと考えられる。

Sさんは園芸を通じて、周囲と「好意」「喜び」「達成感」をやりとりすることができた。だから仲間として大切にされているという感情を定着させることができたと考える。いつも「ここはどこや」と言っていたSさんが「ここはうちや」とつぶやく場面に出会うことができたことは、なにものにも代えがたい。バイジーは、利用者様の反応が自身の喜びでもあるということを、身をもって知った。「相手を理解したい」という思いで支援したことが実を結んだ。今回のプロセスを通じて利用者様が変わると職員も変わることを実感した。

【まとめと今後の課題】

今回の研修を通して、スーパービジョンを繰り返し行うことで、バイジーに気が付いてもらい考えて行動を起こすことができた。それと同時に自分自身も普段から指導する際にティーチングになりがちだと気が付くことができ、3週目からですがスーパービジョンを意識して実践した。相手に考えてもらうように、気が付くヒントを出し続け答えが出るのを待つ、見守るということはとても大変でバイザー自身の力量が試される場面だと改めて感じた。

一人の職員に対してスーパービジョンを行うことで、気が付き行動する姿がフロアの全職員にもいい影響を与え職員の成長を刺激するきっかけになった。

また、はじめにお互いを褒め合う研修を行ってから実習を行うことで相手を認めること、伝えることの重要性にみんなが気が付くことができていたのでフロアの雰囲気も良くなった。職員それぞれの気づきが増え行動する事、生活歴、記録・情報の共有の重要性を知り職員同士が意見を話し合うことで、同じ方向に向かって統一したケアをすることができ入居者様に対して楽しみ安心の提供を行うことができると今回の実習で学ぶことができた。